愛すべき侵入者/肥前の旅人
 
夫婦だけの暮らしが
単調すぎるのでしょうか
真新しい車に 子犬を乗せて
夫が 帰ってきました
まるで川から桃でも拾ったみたいな
陽気な気分で
私の郷里 佐賀という文字の入ったダンボールには
目尻の垂れた 子犬が縮こまっています

勤め先の小学校の正門近くに
すてられていたそうです
県営住宅の真ん中にあるその地域では
ペットを飼ってはいけない
という規則があります。
一見 熊のような かわいい子犬を
喜んで捨てたとは 思いたくありません
せめて 気のいい先生が 拾ってくれないだろうか
そんなつぶやきが 聞こえてきます

私の仕事が また増えました
玄関の三和土に繋いだ子犬は
いたずら好きで 靴をくわえては
自分の部屋に持ち込みます
我慢できなくて
三和土に おしっこを漏らします
何遍いったらわかるの
叱ったその後で
餌をあげたりします
朝の散歩は夫の仕事です
眠気覚ましにちょうどいい
など 言いながら嬉しそうに
出かけていきます
朝 起きたときから
夜 寝るまで
子犬ケイスケの話題が
ボールみたいに 弾んでいます

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