オナニー・クレーン/ZUZU
つくりかけのビルが
アパートの三階の
ぼくのへやの窓から見える
深夜にジャズをかけながら飲めない酒を飲む
カーテンをあけて
ビルの屋上のクレーンのさきっぽが
赤く点滅するのを肴にして
オナニーをしたいけれど
おかずがない
つくりかけのビルで
ぬけないかな、とおもう
一階ずつつみあがってゆくビルの中でやがて
どんなひとたちが
どんな会話をするのだろうと
すこしの
でもすきとおった
たしかなかなしみを
かんじる
放たれるかなしみのゆくえには
いつもその瞬間だけあいした偶像があり
それは
どこかしらない世界で
ぼくの私生児をはらんでいるのかもしれない
つくりかけのビルには
まぼろしのような灯りがともり
その灯りのなかで
ぼくはワープロに向かい
ゆくあてのない言葉をうちこんでいる
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