電波塔/大小島
聞こえる
枯れた路地の壁際で
男が携帯で話をしているのが。
その携帯の電波をたどっていくと
しかし、どこにもつながっていない。
聞こえる
いま、ようやく動き始めた心臓の音が。
音が静かに鳴っている。
男は携帯を通して、その音を聞く。
しかし、その電波はどこにもつながっていない。
だから、彼はいつも嘆いている。
だから、僕もいつも嘆く。
僕らの頭の上にたった電波塔は
まったく、宇宙にすらとどかない。
僕らはいつも嘆いている。
僕らはいつも笑っている。
その電波はいつも怒っている。
僕は聞く。携帯に耳をあてて、
他でもなく
僕の心臓の音。
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