訃報のみずうみ/前田ふむふむ
瞳孔の夢の跡に
手を出せば、灰になって朽ち果てるだろう。
列車の前方は、捻じれながら、白い閃光を発しており、
暗い現実の座席が折り重なって、
速度のなかに、飲み込まれている。
その速度の破れ、弾ける先端の幻野に、
きのう、わたしに届いた訃報のみずうみが、
寒々と、また、目まぐるしい熱気を帯びて、
わたしを待っている。
わたしは、溢れるほど込み上げる慟哭の皮を、
剥き続けて、剥がれた透明な雫を、
かすれゆく網膜のなかで
滲みだしている、白い杆状体の、
選ばれた一点に集約してみても、
あまりにも、遥か遠い、この列車の旅は、
あなたの言葉を叶えなかった、
わたしの果てしない言い訳の荷物を抱えて、
何処まで、続いてゆくのだろう。
わたしは、喪服を着た列車が、彼の地に辿り着いた時、
わたしの肉体が、霞のように貧しく、
ぬかるんだ乱反射する漆黒を歩きながら、
あなたとの語り尽くせない思い出と、
最後の――、そして始めて出会う記憶だけのあなたと
かなしい対面を果たすのだ。
戻る 編 削 Point(9)