訃報のみずうみ/前田ふむふむ
泥水のような灰色の空が、
切り立つ垂直の地平を蔽い、点から線へ変貌する驟雨は、
藍色の抽象画の顔を育てている。
列車の窓に映る凡庸な景色は、引き摺るように、
後ろ向きに、失われた過去を走ってゆく。
次々と洪水のように訪れる、忘れさられる目次の紙切れの
一片一片は、わたしの空洞の心臓を
鮮やかな虚無で埋め尽くしているのだ。
窓は硬直して、わたしを囲い込み、
騒音の音階の壁になり、鋭い剃刀のように切断されている。
向こう側では、街が煌々と燃えている。
いつ終わるともわからない、砕かれ続ける冷たい炎の群。
赤く染まったまま佇んでいる。――
見せているのは影。触れることの無い瞳孔
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