手につかず/加藤泰清
手につかず
風がそよぐ木陰の中を
散歩途中
ドブに足がはまる(なぜここにドブが)
(手でアリを潰した/そうしようと思ったわけではなくて)
そっと足を引き抜くと
膝は真っ赤に割れていた
こんなに歪んだ視界ではぼくは
なんにも手につかず
涙を流す が今ぼくがすべき
全て
頭のてっぺんの
つむじが気になって
なんにも手につかず
(はじめてのカラーリング)
しっぽり濡れた
女性のくせっ毛が気になって
なんにも手につかず
(雨の日のバス停)
はじめてのRPGで
魔王と勇者の勇姿をみて
なんにも手につかず
(一時間の死闘)
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)