赤い蕾/
紫乃
春の嵐に桜の散った頃
赤い蕾は静やかに開く
鳥も獣も虫も人もみな
雨を避けて震えている
赤く匂い立つ蕾は
濡れそぼった灰色の
凍えた大気のなかで
熱い吐息を漏らしている
その熱い吐息は
朝靄のうちに溶けゆき
陽光にまぎれ
凍えた大気を赤く染めるのだ
静かに
そうして
雨のあがる朝
闇夜の拡散する頃に
他の蕾たちは静かに開きはじめる
赤い花弁は
そっと
散るのだった
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