白い紙ふうせん/佐野権太
 
故郷(ふるさと)に近づく列車
向かいに座った女性は
首のすわりかけた赤子を
前向きに抱えていた

一瞬、驚いたあと
すぐにうつむく仕草は
内腿の痣(あざ)を
男子生徒にからかわれていた
あの頃と少しも変わらない

若くして結婚したという
今は独りだという
灰碧(はいみどり)の瞳、細めて
流れゆく景色の向こう側に飛ばした

  うまく、いかないもんね

愚図りだした赤子を
揺すり、あやす手つきは
すっかり母親で

僕はまだ
東京に勤めたばかりで

初めての帰郷で

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