アンソニーの忘れもの/竜一郎
えているよ」と語ったり、ぼくのTシャツに妙な天使の絵を画いたりした。もしも、精神科医に彼女を紹介したら、何かの症状が見つかるかもしれない。けれども、彼女は元気だし、楽しそうだ。アンソニーの忘れものはゆっくり育っている。
アンソニーの残したものが、彼の見えなかった天使を観た。彼女こそ、彼にとっての芸術の名に相応しいことは疑いようもなかった。
彼女の名は、ナジャ、とか、いったか。ワタクシにはどうもハッキリしない。なにぶん、昔のことだ。彼女すら、もういない。掘建て小屋の隅に埃を被ったシートがあり、それをめくると、絵が観られる、とのことで、絵画鑑賞がホームレスどもの暇つぶしになっている。
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