街頭へ/前田ふむふむ
わたしは、ひかりの瞼の裏から、
ゆっくりと起き上がり、
五月の青い寝台を乾いた胸のなかに畳み込み、
直角に軋んでいる地平線に、
わたしの痙攣している意識の塩水を、
ゆっくりと溶かし込む。
長い間、暗い地下室の書物に埋もれてきた経験は、
積み重ねられた残骸として、
千の錆びた尖塔の荒野に、晒されていくだろうか。
西の黄昏ゆく時代の夕暮れを見るがいい。
風が吹き込む出口には、
芳醇な金色の旗が棚引いている。
わたしは、街頭の赤い息吹を、
くちびるに押し当てて、ひとり茫漠とした、
肉体から醸し出す、
煌々とした喜悦をすすってみる。
そこには、たくましいいのちが脈々と息づいている。
わたしは、こころに青々と隆起した空を、
囲い込み、初夏の色を帯びる朝の瞬きを、
しっかり掴み取ってみる。
勇み沸騰する街頭へ出よう――
そして、滴り落ちる艶やかな英知の裾野を、
しっかりと抱きしめるのだ。
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