街頭へ/前田ふむふむ
千の書物に埋もれたみずたまりが閃光している。
赤ぶどう酒のかおりが溢れるほど、注がれている、
豊穣なページの眼差しは、街路樹の空虚な、
灰色の輪郭を、水色の気泡の空に浮き上がらせてゆく。
その空の内壁を沿って、暗闇の底に広がる階段を、
登りつめる外界に導く断面には、液状の安らぎが、
音をたてて回転している。
パタパタ、パタパタ、
洗濯物がそよぐ窓辺に、
やわらかい女性の白い腕が凭れて、
見え隠れしているスカートの、赤い曲線を、
あたたかく流れる白い朝のためいきが飲み干してゆく。
溶けてゆく風景。
瞳孔の乳房に広がる光線の黒い輝き。
ひかりがざわめいている。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(15)