マリア/dew
 

世界でいう「意味あること」の中に
自らの営みが含まれると思った

女は口端を曖昧に上げ
だけど優しく男の頭を撫でてやった
ハンカチを渡すなんて無粋な真似はしなかった


喫茶店の支払いは男がした
女は赤いマニキュアの塗られた片手をゆるりと上げ
細長い影を揺らして灰色の景色に消えていった


男は空っぽになっていたけれど
満たされていた
生きてみるのも悪くない気がした

その日も男は衝動に従順だった
不思議と悲しみはなく無心だった
無心でただ、信じていた


今度あいつに礼を言おう

妙に男前な友人を思い
気だるい躯で煙草をふかしながら
男は傾き少し愉しげに嘲笑った



男がその果てに見たものは何だったのか?


―――――愛と、無、だったと思う。
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