[ 真夜中の懐中時計 ]/渕崎。
真夜中の懐中時計はチクタクと
つまらぬ音を刻みましては
しゃがれ声の車掌が錆びた切符鋏を片手に
ガタゴト揺れる
三等列車に寝転んで
古書を読み耽る僕に
慣れた様子で歩み寄り
「切符を拝見」
それだけ告げて、
行き先も知らない片道切符の隅を
無情無情に削ぎ落とす
真夜中の懐中時計はチクタクと
つまらぬ音を刻みましては
しゃがれ声の車掌と同じく古びた汽車が
ポーっと枯れた声で啼く
三等列車の片隅で
古書を枕に寝転ぶ僕に
しなやかな体躯の黒猫が
「同衾はいかが?」
それだけ告げて
にまりと黄金色の瞳で笑って
非情非情に僕を喰らう
真夜中の懐中時計はチクタクと
今宵も寂れた音を奏でては
三等列車に寝転んだ
つまらぬ僕を道連れに
今日も今日とて
東へ西へ
嗚呼、夜が明けるが早いか
それとも、僕が眠りに落ちるのが早いか
それを知るのはしゃがれ声の車掌と
にんまりと笑う黒猫ばかり
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