F君に捧ぐ/ZUZU
ぼくのもっとも尊敬する詩人は
F君である。
F君は現在ガソリンスタンドで働いている。
そこがどこであろうと
まるでそこがカリフォルニアであるかのように
真っ黒に日焼けして。
F君の詩を、
きみは読んだことがあるか。
ぼくはない。
F君は、詩など書いたことがないのだから、
だれも、
F君の詩を読んだことは無い。
F君の足取りは韻を踏んでいる。
まるでサーカスの軽業師のように。
あれが詩だ。
F君はこころの痛みを知っている。
知っていて、韻を踏んでいる。
失恋した彼の痛みのはげしさは、
ぼくでもわからないけれど、
F君はぼくの話をきいて、
そうか。
と言っただけだった。
いい顔をしてくれた。
とてもいい顔をしてくれた。
ぼくは救われた。
みろよ。
カリフォルニアだぜ。
青い空だ。
今日もF君はガソリンスタンドで働いている。
それはカリフォルニアだ。
決して群馬県ではない。
ぼくは彼の詩を愛する。
書いたか、書かれていないかなんてことは、
なにも、問題では、ないのである。
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