ムスクの思い出/クリ
 

ムスクの香りのする女がいた
自分は頭が悪く、仕事もできないと思いこんでいた
僕といっしょになることはないのだ、と信じていた
彼女の思いを論理で解きほぐすことは無理なことだった
ムスクの香りが、どうしようもなく立ち上ってくるごとく

「あなたはいつも、あなたのところに帰ってしまう
私には帰るところがないのに、あなたにはある」
そう言って泣いた

 僕は…、
 好きだよ…
 僕は…

  「昨日雨に降られた。そしたら知らない女性が傘を差し掛けてくれた。
 途中まででも、って。僕は高校生のようにドギマギしちゃった」

「ずっと未来になって」と彼女が突然言う
「私が
[次のページ]
戻る   Point(1)