ムスクの思い出/クリ
ムスクの香りのする女がいた
自分は頭が悪く、仕事もできないと思いこんでいた
僕といっしょになることはないのだ、と信じていた
彼女の思いを論理で解きほぐすことは無理なことだった
ムスクの香りが、どうしようもなく立ち上ってくるごとく
「あなたはいつも、あなたのところに帰ってしまう
私には帰るところがないのに、あなたにはある」
そう言って泣いた
僕は…、
好きだよ…
僕は…
「昨日雨に降られた。そしたら知らない女性が傘を差し掛けてくれた。
途中まででも、って。僕は高校生のようにドギマギしちゃった」
「ずっと未来になって」と彼女が突然言う
「私が
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