カタギリさんを探して1 キップル編/クリ
二日まえに人違い「された」 路上で通りすぎる瞬間に
「カタギリさん!」
って言われた。僕に向けられたものとは思わないので無視して進むと、何度も「カタギリさん」「カタギリさん」。
もちろん僕は「カタギリ」などという名前ではない。
「片桐はいるな」とか「片岡かたぎり」という名では、決してない。むしろ「オトギリソウ」だったら少し近いけど。
周りには僕しかいないので、ひょっとしたら彼は…、と考え方を一瞬で変えてみる。
何かを落としましたよ、と教えてくれているのだが、滑舌が悪くて僕には「カタギリサン」に聞こえるのかも、
あるいは彼の生まれ故郷の方言では、「領収書だけがやけに多い財布を、あなたは
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