風触/たりぽん(大理 奔)
 
見えない風で
街を満たしていく
それは流される疑似餌
のようなものではなく
濁流の中で耐える小石にも似て
揺らいで見えるのは
まぶたの裏の潤みの中で
抗う魚の影か

   立体駐車場は非エンタシスの柱
   揺れる非常出口表示の
   カチカチとたたく音
   うなるのは
   低音だけのハーモニカ

老いた樹の
日の当たらない貌
錆を背中に流す雨を連れて
飛砂で刻む
立ちつくした
、という記憶

飾るスミレの群れ
墓標はついに
切り立つ岬におかれ

高音だけのオーボエで
いつしか呼び覚ます
抗う波に似た

それが
あなたへの


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