楽園の前へ/暗闇れもん
 
去勢したカストラートの映画を友達と二人で
眠ってしまった友達とは違って
人知れず食い入るように見つづけていた
この世のものとは思えないほどの声を保つために
兄が弟を自らの手で

不思議なざわめきが体の一箇所から生まれ
画面が赤く染まっていくように
体中にじわじわひろがり
わたしに沈み込んだ

天使のような歌声
楽器よりも人の声こそが
この世でもっとも美しいと思うわたし
それはわたしが人ゆえのことだろうか

純粋な行為なのかもしれない
唯一つのことを愛するゆえの過ち
けれどなぜだろう
たまらなく禁断の香りがわたしを襲う

イブがたべたりんごの香りが鼻をくすぐる










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