もっとも速くあれ/佐々宝砂
ヴィレブロルト・スネルは己の運命も未来も悟りはしなかった。
しかし光は己の運命を知っていた。
もっとも速くあれ
それが光の命題であり運命であり
屈折しても反射しても散乱しても構わなかったが
もっとも速くなかったものは
干渉によってかき消されることになっていた。
もっとも速くないものは
もはや光ではないからである。
光は人間よりも不自由だったので
遮断物を避けることができず
吸収されたりどこかに飛ばされたり曲げられたりしたが
命題を忘れることはなかった。
いかなる場所においても
光は光である。
もっとも速く。
もっとも速いものこそが光であり
そうでないものは光でなくなるのだ。
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