天国は高い/鈴本 蘭乃
死んだら天国にいけるんだ、と、その少年は笑って言う。あたしは、そうね、あなたは良い子だから、きっと天使が迎えに来てくれるわ、と答える。ねぇねぇおねえちゃん、天国ってどんなところなの、と少年が訊ねた。おねえちゃんも死んだことがないからわからないわ、と微笑み返せば、死んだらわかるかな、とうれしそうに笑った。
死んでしまったら、燃やされるか、もしくはそのまま埋められるかして、火の中で骨だけになるか、土の中で腐敗していくか、そんなところだ。天国は、遥か遠く、天使は、いつかの君だ。天国に昇るには、あたしはきっと、重すぎる。そんなことをぼうっと考えていると、少年が、どうしたの、とでも言いたげに、あたしの顔を覗きこんでいた。
ねぇおねえちゃん、と笑顔で天国を語るその少年は、きっと、死からはほど遠い。あたしはもしかしたら、この少年の言うところの天国にはいけないかもしれない、とぼんやり、思う。
(いけたとしても、あたしは高所恐怖症だから、きっと気が狂ってしまうだろう。天国は遥か遠く、高く、あまりにも穢れがなさすぎる。)
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