桃源歌/田代深子
部分は哺乳類に
腹を割いて臓腑を水生のものたちに
それでも残るものを微小の虫たちに
撒いてまかせてしまえあまさず
すまないが手間なのはそこまでだから
わたしの頭を砕いた君よ泣くことはない
痛苦を分泌する部位は失せ素軽く
ほらこのように話しもできる
これまでは顔があり口があり耳があり
眼を合わせていながら話せずにいた君と
話をしよういまこそ多くを
あの新しい唄や君の好きな娘のことを
いま眼の失せたわたしに視えている暁光は
清涼な桃の実の香である
耳なきわたしに聞こえる音は淡い甘み
歌いたいのだ君の喉を借り
土籠もり頓服されめくるめき飛ぶ
いずこの種の場も吾がところなり
そうだ
君のゆくところも
2006.5.4
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