桃源歌/田代深子
まっていたおもいすらする懐かしい驚きは
鼻の奥から桃の実の香をともなって
額のさきへとつきぬけふきだした
馴染みぶかいあの痛苦のみなもと
乳白と鮮赤の漿と沫がまじりあい
桃色の滴となって地に蒔かれた
金輪際の痛苦は消えたのだ
さらにわたしは君にこいねがう
その一抱えの岩であまさず砕いてくれ
ていねいに眼球のガラス片も残さずに
頭蓋をつぶしながら土へ擦りこみ
唱えてくれ
春に咲く花々のなかに吾はなし
その実の種の仁の憶へと沈澱す
そうだ
わたしの頭部をきれいに砕き終えたら
二本の腕と脚を関節ごとにもいで分け
小さな部分は鳥と爬虫類に
大きな部分
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