記憶?失われた季節の中で/前田ふむふむ
 
た沈黙を絶叫している。

私は、咲き誇る菜の花畑のなかを、
零れ落ちる涙を手で受け止めても、
断片が切り貼りされて積み上げられた古い台本は、
薄れゆく過去のみずうみで、
三文芝居を演じてゆくだけだ。

あなたは、いまも、目覚めていない。
わたしは、いまも、目覚めていない。

しかし、わたしは、あなたと透明な白い浜辺で、
語り合える静寂の時間の織物が、
衣擦れの音を立てて、地上に浮かび上がる、その時を、
朝焼けの枕元で、いつまでも待ち望むだろう。
たとえ、帰るべき春が無名の神話の夜を
歩き続けたとしても。
ゆくべき秋が、都会のふところで、
たとえ、朽ち果てたとしても。


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