大丈夫なん/mina
ご先祖様の温もりが
土に宿っているから
日本は大丈夫なん
命の糸がそこらじゅうにめぐらされてるん
太陽の恵みには そうしたもんがこめられてるん
そう言ったおばあちゃんが
交差点のまんなかで
うずくまるように 泣いている
赤い長襦袢を上着がわりにひっかけ
地下足袋を黒く汚して
交通整備の白バイの警官が
「赤信号ですよ!」と笛を浴びせかけているなか
人はいっぱい通り過ぎるのに
いつまでも 動き出すことをせず
ただ一点 みえない太陽を凝視したまま
おじいさんが守ったタンポポがここに
あったのを 苛つく白バイは知らない
それをみつづけるのが おばあちゃんの幸せだった
根が強いタンポポは わしらの見本だねと
湯気が立ち上る縁側の向こうで微笑んでいたおじいさんの
面影を 受け継いだタンポポがないことに
泣くのはおよし と かわりに言える人はもういない
涙で赤さを増す長襦袢が 鈍い光を発している
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