断片/
たもつ
たがはんこのような
ものを押してあげた。駅は嬉しそうに礼を述
べて帰った。これから毎日、来るはずのない
列車を待ち続けなければならないのだ。
雨が降リ始めた。傘を持つ者は傘を差し、
無い者は差さなかった。いずれにせよ、くち
ばしは傘に収まりきれないので濡れるしかな
かった。人々は皮肉をこめて、それを「ささ
やかな平等」と言った。そのような、日常と
呼ばれる断片の中で、わたしと名乗るわたし
が行方不明になった、ということは翌日の報
道で知った。
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