不在票/岡部淳太郎
水の中に深く潜ると
魚たちの溜息がきこえてくる
どうせ水のある場所でしか
生きられないいのち
われらの時には
乾いた真実が欠けている
ソレイユ!
ソレイユ!
光は水の中にまで入りこみ
これらの不安な境域でさえも
あたためてくれるのだが
われらの時には
乾いたいたみが欠けている
重要な知らせはすべて
われらが濡れている間にもたらされる
生きている瞳では見ることの出来ない
これらの乾いた事実
乾いた事件
今日 私はずぶ濡れになって
家に帰りついた
海の体積のような水にうたれ
頸筋を鈍く痙攣させながら
私のいない間に
乾いた真実がもたらされた
不在票は
焼けた魚のかたちをしていた
(二〇〇六年四月)
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