斜線の雨/カンチェルスキス
手のひらになじんだ約束は 紅茶が来る前に冷めてしまった
切り刻まれた家族写真 バス停のベンチの下に散らばって
あつめても元に戻らない 砂塵舞う風に消えた
組み込まれた部品の赤錆が あふれ出す悲鳴
干された洗濯物の揺らぎに 電車の音がふと立ち上がる
流れ込む湿気と雲行きのかげ 晴れがましく洗濯機は回転する
生まれたばかりの赤ん坊を中に入れたまま
途切れ途切れの赤をつないで それを誰かが血液と呼んだ
もっともらしく体内をめぐる 詐欺師の含み笑いがやまなくて
なくした踵を補填する旅のような 黒混じり 呼吸
全力 無意味 耐え切れなくなった重さが 表面張力を破る
稲光
線路の向こうに消えた 足音も残さず
どんな顔をしていたのか
目撃者が言うには
特徴を口に出す頃には何もかも曖昧になっている
意味もなく激しく電柱が焼け落ちて
気象予報通りに斜線の雨が降りはじめる
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