難破船/前田ふむふむ
粉々に砕けている銀色の空の傷口から、
降りそそぐ驟雨は、わたしの灰色の乾いたひとみを、
溢れるほど、潤してゆく。
壊れている、遅れている砂時計のなかで
わたしは、眼を浸す溢れるものが涙だということを、
俊敏なカラスに、囁かれて、ようやく気付いている。
瞑目していた風は、唸りを上げて、呼吸をして
わたしの古い日記の荒野を丹念に捲りながら
ひとつひとつの言葉を飲み干している。
だが、わたしは霞みゆく砂塵のなかにある、
置き忘れた履歴を、拾い上げるために、
この雨粒のように、身を任せて、
朽ち果てた石棺を開いてみても、
変わること無い瑠璃紺色の化石は
都会の側壁に、使
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