壁に吊るされた学生服/服部 剛
 
は 
モノクロームの教室の机の中に置いてきたまま 
腐りかけたハートの大人になった 

  十五年前に着ていた学生服の内ポケットの中には 
  罅(ひび)割れたハートが今も うっすらと点滅している 



( 卒業式の日
( 雨の降る川沿いの道を 
( 黄色い傘を揺らし消えてゆくあの女(ひと)の後ろ姿 
( 人気(ひとけ)少ない教室の
( 無数の滴(しずく)が伝う窓から見送っていた



  薄暗い部屋には十五年間吊るされた学生服 
  首の上には
  破れた恋に哀しく青ざめた青年の顔が 
  今も朧(おぼろ)に現れる 







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