壁に吊るされた学生服/服部 剛
日曜日の朝
シャワーを浴び
鏡の前で髪を整え
襖(ふすま)を開け
薄暗い部屋を出ると
何者かが袖(そで)を引っ張った
振り返ると
ハンガーに掛けられた
高校時代の学生服の
襟(えり)を留める爪が袖に喰い込んでいた
( 十五年前の放課後
( 片想いの青年は
( 想いを寄せる女(ひと)の下駄箱に
( ノートの切れ端に震える文字で書いた恋文を入れ
( 眠れない夜を過ごしていた
年を重ねるにつれて
生きることに少し疲れた僕は
遠い昔に追い求めた「愛」
という照れくさい言葉を記したノートは
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