それはまるで恋人同士のように/阿部
 


私たちの密やかな想いの始まりは
八月の明るい月の下
小さな灯りを頼りに
貴方の指にそっと触れ
少し汗ばんだ手と手を繋ぎ
それだけで胸は高鳴り
それだけで充分に潤い
そのままの格好で時間を忘れ
たまに笑い合い
空に月が消える頃には
サヨナラマタアシタ

誰にも知られることなく
また明日が来て月の下
ベンチに二人寄り添い
もしかしたらそれは年老いた夫婦が
縁側で肩を並べてお茶を啜っているような光景
他人から見れば私たちは
まるで恋人同士のよう

密やかな想いは続く
月の見えない暗い夜も
雨が降って冷え込む夜も
風が木々を揺らし
色付いた葉が舞い散
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