午後のめぐり/木立 悟
在ることさえも忘れられた本
うたのように閉じてはひらき
曇のかたちの息をまわし
変わりつづける風と花房
捉えきれない色に微笑む
手はあたたかく
目は寒く
光の流れに疎い足首
猫を呼ぶ色
屋根の蛇
うずくまる背の水たまり
木は闇より暗く浮いていて
蝶のかたまりの声がする
たとえようもなくそのままの
鳥が姿を変えるとき
ひとつのうたが点るとき
手のなか 湿り気のなかでしか
羽は羽でいられずに
小さくゆらめくまばたきに
降りてくるもの
飛び立つもの
億のはばたきの重なりを見る
水たまりの底に沈んでいる
どこにもつながらぬ水の輪に
水をつなぎ 水をつなぎ
ゆるりと雲に結ぶとき
雲は少しだけ少しだけ泣く
ふわりひとつ こぼした肌に
冷たく見えない珠は残る
雨の音の雪が降り
何も濡らさず消えてゆく
鈍につらなるうたのなか
午後へ午後へ消えてゆく
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