あの頃の私たちは、どこにいたのか/桜 葉一
　
思い出の中だけで生きていた気がする。
きっと言葉だけのことだろう。
どこかで聞いた。
どこかで見たことのある。
ありきたりで。
当たり前で。
高尚で。
意味不明な。
言葉が好きなだけなんだ。
そう。
例えば、ドラマのセリフのように。

空を探しても。
森を探しても。
海岸線を探しても。
あの頃の僕らはどこにもいなかった。
砂場に流された貝殻の中にはもちろん。
まだツボミの花のなかにも。
燃え尽きた夜空の星にも。
どこにもいなかった。

あの頃の僕らはきっと。
ただ思い出の中だけで。
言葉として存在するのだろう。
いつかの教室で出会った君と一緒に。

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