ノート(とぅあららら ら)/木立 悟
 




かわいいものは
みな食べられて
腹のなかでうたをうたう
とぅあららら ら


なんにも持たずにひとりのものは
なんにも持たずにひとりに生まれ
なんにも持たないうたをうたう
とぅあららら ら


猫の目をしたねずみは仲間はずれで
足跡ばかりをさがして歩く
たったひとつ うたう足跡
とぅあららら ら


目かくし鬼の手をはらい
自分で自分の目をつむり
冬は花をひとひらうたう
とぅあららら ら


夜の灯りと灯りのあいだ
川の音と風の音
ないようにあるようにないようにうたう
とぅあららら ら


塩の火の色
とどかない舌
甘い虹の曲がり角
とぅあららら ら


見つめるものは
胸のいたみ
空をめぐる壊れた器
とぅあららら ら


さっきまで夜は二本足で
街を踏んでは次の街へ
星あかりには片目で
(さよなら さよなら)
とぅあららら ら











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