逃避行できたらいいけどね/春日響
 
幸せの向こう側にいる
あたしもあなたも手を繋いで笑っている
人はきっとおかしく思うだろう
ほら
歩くおばちゃんが怪訝な顔してる
わかってることだ
今更何を悔やむのか

ぼんやりと輪郭をごまかす桜を
あなたを放って一人でじっと見ていた
あなたは泣いた
あたしもつられて泣いた

繋いだ手をぎゅっと強くした
車のガラスが白く曇っていく

幸せの向こう側にいる
「好きなんだから仕方ないね」
そう言って二人で小さく笑った
おまわりさんが少し警戒した顔で
車の中をじろじろ覗き込んだ

あなたが繋ぐ手を緩める
空気が揺れた
じわっと涙が溢れた
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