喪失?失われるとき/前田ふむふむ
 
いてゆく。

わたしが、決して語ることの無い、
この失ってゆく砂漠のような時間の中を、
語り続けている、繋いでいる、そして繋がっている。
汚水と蒸留水の混沌で満ち溢れた思惟の海の岬のふところで、
折れた翼を精一杯に張って、飛び立つ海鳥たちの
鮮烈な讃歌が聴こえる。

あの霞みゆく緑の月を打ち落とせ
あの溶け出した黒い太陽を打ち落とせ

金切り声を上げたばかりの海鳥が
見えない時間の中を、朦朧としながら、
喪失した痛みを数えて直立しているわたしの背中を
無造作に撫ぜてゆく。
ああ、わたしはひとりで、吹き荒ぶ断崖で、
孤独に佇んでいたという現実が、鋭い尖塔のように、
青々とした空に突き刺さっている。
わたしは溢れ出す灰色の海で号哭することだけが
許されている曳航される廃船の姿を晒して
今、世界が悲しく死にゆくような夜を歩いている。


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