四月のいる場所/岡部淳太郎
のこされた風の中
四月がやって来る
この思いをのこしたままで
新しい輪に入らなければならない
記憶を背後の倉庫に閉じこめて
残酷な月が始まる
すべての匂いや音や色が
われわれを呼吸困難にする
四月は
笑いながら人を生き埋めにする
のこされた食事を台所に捨てて
われわれは暖かな日へと備える
この思いをのこしたままで
古い尻尾を踏みながら進む
陰惨な月は和らいだ闇の片隅で
ぼんやりとその輪郭を失う
誰もが暖かくなっているから
誰もがほんの少しだけ世界の不運を忘れる
四月は
歌いながら人を浮き上がらせる
この季節に花が咲き
鳥が歌い獣の欲望が疼くのも
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