杉の影さす教室〜中学卒業によせて〜/まきび
 
もともと二十分しか給食の時間がないために
たった五分で食べなくてはならなかったり
授業中に教科書に隠して漫画を読んだりしたこと
手紙を回しあったこと
広い体育館で掃除の後に
そっと踊ったことも
みんな覚えているのにね

窓から見える杉
きれいに汚れの落とされた黒板
五分間せっかちな教室の時計
試験前みたいに並べられた机
それらを知ろうとしても
もう 私にはわからない
物達はただ各々が独りっきりで
いのちを手渡してくれる人間たちを待っている

学校は不思議
入れ物はまだここにあるのに
私たちで過ごすことのない
明日が来る

さよなら
笑い声よ 歌声よ
もう二度と
私たちがよみがえることなどないのだろう

温かい息の
あふれかえることのない
今の明日よ
明日のいまよ
前に進むことがない
返ることもない

黒板の白墨が落ちた
私達という名の意志



2002・8・29(作)
2006・4・11(改)
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