遠望/do_pi_can
違いない
ジェット気流に揺れる機内から
おばぁのしょぼしょぼした目なざしが
勿論見える事はない
おばぁが漏らすかもしれない溜息も
目やにと見間違える涙さえ
ここからは見えないのだが
おばぁが確かに、そこに居る事は
離れていても分かるのだ
町から、細い川沿いの道を辿り、
小さな木橋を渡って、さらに
奥地へと分け入るあの道
こんなところに
どうやって人が住まうのかと
驚きの目で見つめたあの道だ
その行き止まる所
炭焼きの亭主をとうに無くし
帰ってくる子供も持たないおばぁの
人生がうずくまる所
おばぁが一人こぼした涙の数だけ
山の雪は降り積もり
おばぁが呟いた独り言の数だけ
雪が木々の枝を折る
御岳の向こうに未だ冠雪して眠る
北アルプスの山々を
離れて見れば見るほどに
おばぁの心が染み来る
点在する千切れ雲の
その下の
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