桜、散る/松本 卓也
弱い雨が混じる夕暮れ
運ぶ風が柔らかに包む
小さな花びら舞い落ちる
鼻の頭で微かに咲いた
一片の泡沫を運ぶ香りは
いつからか通り過ぎるだけの
季節を憂えているようで
桜にですらきっと
視線を定めた過去は
どこに置いてきたのだろう
新緑重なり合う音達に
踊る桜色の欠片は
きっと混じりながら溶け
溶けながらゆっくりと
流れ込んでいくのだから
僕は心に望んでいた平安など
当にかけ離れていったはずだと
一人きり見つめていたのに
桜はこんなにも
優しく散っていくのだから
また今度会おう
気がつけば
人知れず呟いていた
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