桜人形/shu
 
お墓参りにゆきました
桜のはなびらがさらさらと舞っているというのに
遠くセミの声が耳鳴りのように響いていたのでした
地面は漆黒の闇に覆われ
桜のまわりだけが白く孔があいたように
吸い込まれてしまいそうな光の中に
ぽっかり浮かんでいました

樹齢数千年かという大樹の枝には
数百の蛇の抜け殻が風に揺れ
根元には桜模様の着物をつけた人形が
小首を傾げ目を閉じたまま
白くてか細い足を投げ出して
ちょこりと座っています

その前に幾枚もの桜の花弁が重なり
凍ったように白くこんもりと盛られ
スプーンがひとつ刺さっています
これがおれの墓標です
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