黄色い便器/Kaorinko
便器に
サインを試みた
ところがサインペンのインク切れで
かすれたおしっこのような
名前しか
書けない
ペンキを持ち出してきて
真っ黄色一色に
塗り上げた
塗り上げた便器を
トイレに置いておくわけにもいかず
背負って
川原まで出かけ
途中会う人は
やさしく
会釈をしてくれた
川に
放った
放流なんかではない
便器に愛想を
つかしたのだ
黄色い便器は
ゆっくりとまわりながら
川底に
沈んでいった
そのときかけていたレコードが何だったのかは
今となっては思い出せない
(チェス名人でもあったマルセル・デュシャンに捧ぐ)
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