古代人のヒッチハイク/岡部淳太郎
 
、整然と生まれ出て、世界のことわりを書
き記す。それから、え。疑問の母音が生まれ
る頃には、人の頭脳もそれなりの成長を遂げ、
ついには、お。驚嘆の母音が誕生し、すべて
の感受性がそろえられ、人の胸の中で、旅へ
の欲動が蠢き始める。ああいうえお。世界。



罅割れた唇でうたをよむ
  この唇は水分を欲している
二十世紀末という古代では
歌をよむこと
歌をうむことへの
礼節が存在した
北海道宗谷岬の曇り空の下で
舌を湿らせながら
この旅のための歌をよむ
その記憶がいまもなお
私を時の先へと駆り立てている
歌は降りてくる
あるいは降りてこない
私はそのよう
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