喪失の後先に/霜天
何もない景色があった
見たこともないものを、憶えているのは
緩やかに消えていく光のせいでしょうか
眠れない、夜ならば
明日の仕業にしてしまおう
結局、かたちばかりが残った
匂いが泡立つ前のお話
きっと
どこにも行けなくなった過去の言葉よりも
流れ出しそうな肌の上に、落ちていく花びらの重さも
行方は泣き出す少女よりも速い速度で
ここには、なくなってしまう
ほんの隙間も、見逃さないように
そんな夢想もほろり、ほろりと
目元を零れる言葉を、追い掛けたくなる夜に
霧を、見たくなるのです
喪失の、後先に
今も
それよりも
僕らの見ている森は、可能な限り
腕を広げていくのです
いつかに、何もない景色があった、として
それは言葉が跳ねない夜のこと、と決めて
遊び続ける星の軌道を真似ることを
もう何度も
そんな指先で
消える光を繋げていくのです
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