いつもポケットに詩人/佐々宝砂
ですまない)。
私は時に、広い倉庫や工場で何百人かと働く。その何百人かのうちで、ポケットにラフカディオ・ハーンやエドワード・リアを入れてるのは、きっと私一人だと思う。そんなこと、ほんとにたいしたことじゃない。特別っていうほどのことでもない。でも、ポケットの中の詩人は、単調な流れ作業のなかにいても、重い荷物を運ぶ肉体労働のさなかにも、私を私でいさせてくれる。現場においては一個の歯車に過ぎない私を、人間的な私、私らしい私でいさせてくれる。
いつもポケットにいてくれる詩人たちに、私はお礼を言わねばならないようである。
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