甘い振動/銀猫
 
黒い静寂の隙間から
甘く短い便りが届き
振動はそのまま
片耳から深くに伝わって
封印が容易く解かれる


ひとつひとつの接吻が
蝶になって
夢心地だった恋の日も遠く

雪と降る桜の花弁が
何処へか融けてゆくに似て
想いはいつか土に還る


   ならば今宵
   何に酔う


この手足の枷を
外すのは甘い振動


眠るためでなく
閉じた目蓋の裏側で
切ない春の列車に乗るわたしは
奥歯で言葉を噛み殺していて

薬指のあたりでは
過ぎた日々が躊躇いながら
ぎんいろを放つ


抱擁の腕を思う




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