ほたる/石畑由紀子
 
あの日
しかられて家を飛び出した少女の私は
夜に足をとられて川べりに一人
飲み込まれるのが恐くて泣いた

もう誰も私を見つけない気がした
一人分の砂利の音は
風に揺れる荒れ草の音に
さらさらと消されていったから

小さくかがんで泣き続ける私の名を呼ぶ
聞き憶えのあるその声は必死で
それに応えて私も必死で泣いた
空中で小刻みにゆれている父の懐中電灯が
川べりの私を捕え
光は
舞って舞って私の顔で
止まった

しかられても恐くても
安心しても何でも泣いた私の
なにもかもを許す父の掌が目の前で広がり


   母ちゃんもう怒ってないから、
   ほれ、


私の手をとって歩きだす父は
もういつもの無口な父に戻っていて
それから私は目と鼻だけで泣いた

懐中電灯の光は
私たちの先をゆき

家までの道のりを
小さく照らす


無口な父の
光も無口で
父の歩調にあわせて
光もゆれた
あの日
遠いあの日



あの光は
まるで




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