坂/葉leaf
私には自分が岩であった頃の記憶がない。だが、確かに私はかつて岩であったのだ。恐らく私は、人の欲望に汚染されることのない高山の頂上付近で、時折空から降ってくる虚無の波を一身に集めていたと思うのだ。あるいは私は海底の一部をなして、内側を満たす魚の群れを手際よく飼育していたのかもしれない。
岩であったという確信は、木であったという信念に反射され、肥大する。私は自分が木であったという信念については多くを語りたくない。それは常に原始的な極彩色の恐怖とともにやってくる。私の精神のあらゆる部分は刺し殺され、蘇生するためには無為の一日を費やさねばならなくなる。
街路を歩いているときなど、私は意識すること
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