長い夢のあとで/砦希(ユキ)
だ
車の中で、彼は私を優しく抱きしめてくれた
当時まだ恋に疎かった私には
その抱擁が何を意味するのかも分からなかった
それからいろいろあって
私は携帯のメモリから彼の名前を消去した
これ以上、彼に甘えないように
これ以上、彼を思い出さないように
時間はバカみたいに過ぎて
私もバカみたいに恋をした
恋に疎かった私は
すこしずつ、恋を知った
そしてすこしずつ、大人になった
彼の知らないところで
キスをしたりセックスをしたりすることに
時々、罪悪感を感じたりもした。
そのようにして、彼は私の心の中のほんの少しの部分を
いつまでも支配した
ひとつの恋が終わるたびに
じわじわと彼の存在を思い出した
たぶんそれは
あんなふうに強く抱きしめられたのが
初めてだったから
その後誰かに抱かれるたびに
私の心のほんの少しの部分を
彼はいつまで支配するのか
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