うたとわたし/木立 悟
 

文字と文字のはざまの
負と平衡のはざまの豊かな無
ななめの空の高みには
渇いた響きの源があり
曇を曇ではないものに変え
つねにつねにかきまぜている


並びふるえ立つ焦茶と紫
どこまでも薄くなりつづけ
互いの区別のないほどになり
細かな細かな鱗に分かれ
水は水をにじませて
光は布を増してゆく
空を燃す窓 そこから起つ風
ぬるい暗がりの鏡の前で
木々は午後を脱いでゆく


胸を押せば雨は鳴り
苦しさはただ穂の波を追う
群霊 銀影
息つく間もなく塩の火は降り
海辺の道は蒼く蒼く浮き上がる
波は世界の端のように
たどり着いて帰らない


閉ざしても閉ざしても閉ざしても
うたは近づき触れにくる
わたしの塊を聴きにくる
わたしにはけして聞こえない
わたしからこぼれるわたしに触れる
砕けては消えるわたしに触れる











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